埼玉県深谷市にある(株)小池勝次郎商店。
「日本の農業を活性化し、農家を元気に豊かにする」を経営理念に、農業用資材の販売、農産物直売所、米の集荷と販売、ネギ栽培のサポート事業などを展開する、社員40名の会社です。
農業用資材は季節商材。
そのため、販売時期を過ぎると、また1年後まで在庫を抱えることになります。
また土埃や泥で店内も汚れやすく、当初は店舗内外、倉庫、事務所ともに、かなり乱れている状態でした。
「ゴミ置き場」が、「利益の生産拠点」になる
象徴的だったのが、倉庫代わりに使っていた、裏のビニールハウス2棟です。
冬の豪雪により、雪の重みで天井部分がひしゃげてしまっていました。
中に入っているものを確認してみると、
- 消費期限の切れた除草剤
- 劣化して割れてしまったプラスチック製品
- 仕入れすぎて大量に積み上げられた製品在庫
などなど…。
これらを整理していきました。
売り物にならないものは廃棄し、売れるものは店頭に出しました。
その結果、倉庫内にはモノがなくなり、ビニールハウス2棟は取り壊すことに。
こうしてできたスペースに、新たなビニールハウスを建てて、そこに野菜の苗の育成場を設けました。
これまでは、店舗の脇に苗の育成場があったのですが、手狭で困っていたところです。
苗の育成場が広がったことにより、利益率の高い苗の生産量を増やすことができました。
シルバーさんだけで生産していたのが追い付かなくなり、新たに社員を雇用し、研究開発も進めることができるようになりました。
「ゴミ置き場」が「利益の生産拠点」へと変化したのです。
社員が「適正な在庫」を強く意識するように
整理をした効果は、スペースを有効活用できたことだけではありません。
社員全員が、「適正な在庫」というものを強く意識するようになりました。
たとえばビニールハウスの部材。
以前は倉庫の中にごちゃごちゃと置かれ、おおよそですら在庫量が把握できていませんでした。
部材がないとビニールハウスは建てられませんので、当然「絶対になくならない量」を仕入れます。
そのため、部材倉庫は大量の部材在庫で溢れていました。
それも整理整頓し、「パッと見て在庫がわかる」ように変えていきました。
すると、在庫が減ったのは勿論、今ある部材ですぐに建てられる・補修ができる数が明確になり、建設予定を立てる工程負担が削減したのです。
また、店舗の奥にも倉庫があるのですが、当初はやはり、
- ほとんど売れる見込みのない製品在庫
- メーカーから送られてきてそのまま有効活用されていない景品
などが積みあがっていました。
これらを整理する中で、「使えるものは有効活用し、使わないものは最初から手に入れない」という意識が徐々に根付いてきました。
小池博社長によれば、以前に比べて在庫の棚卸金額が700万円ほども削減できたそうです。
フリーアドレス化で、営業成績がUP!
もうひとつの象徴的な出来事は、外回りの営業部隊の拠点である「中事務所」の改革です。
当初は、書類がうず高く積み上げられていました。
壁にはペタペタと無数の貼紙・・・。
ただでさえ狭い事務所が、余計に狭く感じられます。
「まずは机上ゼロにしましょう」と呼びかけてから、実際に机上ゼロになるまでに数か月。
難産でしたが、机の上と壁がクリアになりました。
ここまで出来たのだから、思い切ってフリーアドレスにしてみてはいかが?と提案してみました。
個々人のデスクを固定化せず、共用のテーブルで仕事をするシステムのことです。
ここでも小さな抵抗はありましたが、やってみると、「お互いの顔が見えて、話がしやすくなりました」という感想が。
このフリーアドレス化が、思わぬ副産物を生み出しました。
各々が壁に向かって仕事をしていた時は、営業マンそれぞれが個々に顧客案件を抱えていました。
それが膝を突き合わせて仕事をするようになったことで会話が増え、自然と顧客の情報やメーカーからの情報を共有するようになったのです。
お互いにフォローできることが増えた結果、以前は月間平均120件だった顧客訪問件数が、今は150件に増えたといいます。
若手社員が一生懸命に取り組む姿がカンフル剤に!
環境整備は、捨てることが一段落すると、停滞感が訪れます。
捨てている間は、山積みになっていたものがなくなり、スペースが広くなるので、見た目の変化が大きく、やりがい感も大きいのですが、その後の活動は地道な作業で、目に見える変化も以前ほど大きくないので、なかなか気持ちが盛り上がらないのです。
同社も例外ではなく、小池博社長は「この時期、活動が面白くなくなってしまった」と率直におっしゃっています。
なんと入社後3か月でリーダーに抜擢されたのです。
新人ですから、まだ力不足であることは当然で、就任当初は、なかなか活動がうまく進みませんでした。
ところが、彼女の熱意が徐々に周囲のメンバーの心を動かしていきました。
望月さんは、毎日の朝礼で前に出て、何のために環境整備を行うのか、その目的を説明し、取り組んで欲しい課題を提示しました。
何か月も何か月も、毎朝続けたそうです。
その熱意に感化されたのが、パート社員の菊池さんと佐藤さんです。
特にベテランの菊池さんは、「一生懸命頑張っている望月さんを助けたい」思いで奮起。
所属する外販部の男性社員さんたちのお尻を叩き、部内の活動を推進してくれました。
活動開始から4年、一番変わったのは社員のみなさんの取り組みへの意識です。
「楽しんで活動できている」
「ルールがなかなか徹底できないので、もっときちんとルールを守れるようにしたい」
「商談がうまくいくような空間を作りたい」
というような、ずいぶんと前向きな発言が出てくるようになったのです。
農業という高齢化真っ只中の業界において、同社では現在30代~40代の社員が会社を引っ張っていっています。
そのエネルギッシュなパワーは、全国のやり手農業生産者の心を掴んでいます。
小池社長は、「環境整備が、トップダウン経営からの脱却を促してくれた」と仰っています。