東京都内にある、とある工務店D社。
3代続く大工の家系で、現在は兄弟で経営をしている、社員10名に満たない小さな会社です。
社長と奥様が、弊社支援先で開催された環境整備見学会に訪れ、「ぜひわが社にも来てほしい」ということで、支援がスタートしました。
倉庫の整理からスタート
社歴が長い家族経営、そして規模の小さい会社では珍しいことではありませんが、当初D社も倉庫にモノが溢れていました。
環境整備のイロハのイは、「整理」。
つまり、「要るものと要らないものを仕分け、要らないものを捨てる」ことです。
簡単なようで難しいのが、この整理。
よくやってしまうのが、「使える」か「使えない」かで判断してしまうこと。
しかし、機能的に使えても、「使わない」モノは処分しなければいけません。
ところが、「使える」モノは、どうしても捨てるのがもったいない、という想念が拭えません。
そのため、なかなか踏ん切りがつかないという難しさがあります。
同社においても、そうした葛藤が常にありました。
特に主に取り組む社長(兄)と、現場を預かる専務(弟)の間では、なかなか意見が合わない場面も多くありました。
特徴的だったのは、「ホゾ切り」と呼ばれる大ぶりな機械をどうするかについて。
昔、木材のホゾを切るために使っていた機械です。
最近は工場でのプレカットなので、ほとんど使っていないようです。
今後も、新築の場合はプレカットなので使いませんが、大規模なリフォームの現場が発生した場合には、使う可能性があるとのこと。
では、「ほとんど使っていない」というのがどれくらいかを、聞いてみました。
最後に使ったのはいつですか?
いや、実はもう10年以上は使っていないんです
10年以上となると、この先もそのような現場が発生する可能性はかなり低いでしょう。
それでも、その可能性はゼロではありません。
そこで、ひとつ提案をしました。
もしそのような現場が発生した場合には、機械を借りる、あるいはリフォーム専門の工務店に下請けとして手伝ってもらう、もしくは多少面倒でも手掘りする、というふうにしてはいかがでしょうか?
すると、現場を預かる専務も納得。
このホゾ切りは処分することになりました。
それ以外にも何度も意見をぶつけ合い、「1日10分間」と時間を決め、「整理」を進めていきました。
こうしてモノを減らした後、これまでに整理が済んだ道具・部品などをしまっておく引き出しが設置されました。
倉庫内の物量が減ったことで、この引き出しの設置が可能になったのです。
みんなが働きやすくなるためのルールを作る
さて、整理はいったん終わったかに見えますが、整理実習は折りに触れ行います。
一旦は「必要」と判断したものを、もう一度出して精査してみるのです。
以前は「必要」と判断したものでも、「整理」の基準が変わってくると、処分できるものがまだまだ出てきます。
モノを処分すれば、それだけスペースが確保でき、環境が整う下地もできます。
例えば、皆で整理をすると、次のようなことがよく起こります。
- Aさんが「要らない」と思っていても、Bさんは「必要」だと思っている。
- Bさんに「必要」だと思う理由を聞いてみると、「昔C部長に言われて」という「事情・背景」が出てくる。
- C部長は「そんなこと言ったっけ?」と「事情・背景」をすっかり忘れている。
今目の前にある「モノ」に焦点を当てると、様々な立場の人から、事情や背景が出てきます。
そこでようやく「じゃあ、これからはこうしよう」という合意が形成され、問題が解決します。
「モノ」は、見えないものごとを表に出してくれるのです。
こうして、新たなルールが設けられました。
「納品待ちの商品や、何らかの事情でしばらく仮置きしておく物品に、ラベルを張る」こと。
これで、本人でなくとも、他の誰でも分かるようになりました。
他にも、
「これから現場に搬入する機材が、道具の棚をふさいでいる」→「搬入機材専用の置き場所を作る」
「作業途中の材料が無造作に立てかけられている」→「作業途中の材料を置く場所を作る」
など、様々なルールができてきました。
希望が生まれてきた
モノがずいぶん減ったある支援日、
- 現状の問題点(困っていること)
- 今後どんな会社にしたいか?
を、みなさんに書きだしてもらいました。
すると、
- すべてにおいて作業のしやすい環境にしたい
- 明るく楽しい会社にしたい
といった”希望”が出てきました。
社長はこんなふうに振り返っています。
毎日の整理の作業は、開始当初は果てしのない苦行に思えたものでした(笑)。
でも、今はみんなで話しながらできる、楽しい活動と思えます。
スッキリしてきたからかな
“そうじ”は、場所をキレイにするだけではなく、気持ちを前向きにさせ、コミュニケーションを促進していく。
D社のさらなる発展が楽しみです。